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KenConsultingの本多謙が政治/経済記事を独自の視点で評論します

「米『対中100年戦争』の愚」を排す

今起こっている米中戦争を愚かだと言うコラムをMartin Wolf氏(英フィナンシャル・タイムズのコラムニスト)が2019年6月7日の日経新聞朝刊6面に掲載している。題名は「米『対中100年戦争』の愚」だ。これを読んだ感想は、これは①中国を公平に見ていないな、と②中国のプロパガンダは排さねばなるまい、ということだった。詳しく説明したい。

Wolf氏は英国人だから基本的に米国に対して冷笑的だし、第2次世界大戦後の欧州の破壊と混乱の中を苦労して英国に移民した父親の息子として、戦後米国が構築した自由な世界経済システムの中で育ったから、そのシステムを破壊する様な変化には拒否反応を示す様だ。だから、米国が過去30年に亘って築いてきた自由な世界資本主義システムと米国資本の投資を利用して経済成長して来た優等生の中国を擁護することになるのだろう。(Wolf氏のコラムは過去に何度も日経新聞に掲載され、筆者も何度か論評したことがあるから、過去記事を参照されるとよい。)

米中対決


それに、米国憎しの余り中国に有利で米国に不利になる状況しか提示していない。例えば「今年のビルダーバーグ会議」の結論は、“米国はロシアをやっつけ足りなかったが、「ついに敵対するに値する相手が現れた」”というものであり、その「狙いは米国の覇権の維持」であり、「その手段は、中国を支配するか、中国との関係をすべて断つかだ。」といった具合だ。なぜ彼は「中国に騙された。このままだと中国が世界を支配してしまう」という米国の危機感は理解しないで、ウイグル、チベット、満州、内モンゴルでの民族浄化、南沙諸島の軍事基地化、日本の尖閣諸島、弱小国を借金漬けにして自分の奴隷にする一帯一路外交に触れないのだろうか?

Wolf氏は中国が、米国が構築したWTOなどの世界経済の枠組みの“よい子“として振舞って来たのであり、米国の『力のある国が何が正しいかを決める』という対中交渉は間違いであり、多少の誤解や逸脱があっても「丹念に話し合えば解決できるかもしれない」と言う。だが、米国は中国のその場しのぎの甘言を真に受けて30年近く中国を支援し、豊かになれば国際社会の良きメンバーになるだろうと期待していたのが裏切られたと思っている。

中国は自分の真の目的を隠してその場限りの嘘を連ねる。例えば南沙諸島に人工島を作り始めた時中国は世界に、「小さな観測基地を作るだけ」と言い、次に「人が済める施設を作るので武器は持ち込まない」と言い、最後に「軍事基地を作るのは中国の当然の権利だ」と言い、戦闘機や爆撃機が離発着できる様にした。これだけでも中国の言う事が信用できないことが分かる。こんな国と協議して契約して何の意味があるのだろうか?

習近平の求めているのは「偉大な中華民族の復興」であり、アヘン戦争前の中国の覇権と名誉を取り戻すことなのだが、それは西欧や日本を含む全世界が中国に朝貢するという冊封体制であり、その実現のために軍事力を積極的に使う、ということだ。米国は中国に共産主義政権を建てる為に様々な工作をした。先ず、国民党政権を支援して日本軍と戦わせ、日本に戦争を仕掛けて敗退させ、国民党への支援を止めて台湾に追い遣り、鄧小平を支援して中国を開国させ、投資して中国を自国の製造基地にしようとした。米国にとって中国は金も時間もかかった作品なのだ。だが、習近平は米国を凌いで世界の覇権を獲ろうとした。これが米国にとって許容できないことは確かだ。例えば、世界の5Gの通信技術と市場を握れば世界の軍事システムと経済システムと消費者のプライバシーを手中にできる。中国は西側から盗んだ技術でそういうシステムを既に完成し、ウイグルやチベット人の行動を逐一監視し暴力を使って彼らを従わせている。チベットの僧侶達が絶望のあまり自殺し、それが続いて久しい。

Wolf氏は米国務省のキロン・スキナー政策企画局長が「中国政府との対立は『まったく異なる文明、異なるイデオロギーとの戦いであり、米国が過去に経験したことのない戦いだ』」と述べたことに危機感を示す。確かに、スキナー氏は日本のことを忘れているが、「偉大なゲルマン民族の復興」を掲げて第二次世界大戦を起こしたドイツも忘れている。“忘れている”と言うよりこの2国は“既に米国と緊密な軍事同盟国になったので言わなくても良い”の方が当たっている。中国は「遅れて来た青年」なのかも知れない。

Wolf氏は「中国のイデオロギーは」「自由民主主義の脅威になるようなものではない。」と言うが、これは間違い。ウイグルやチベットの惨状を全く知らない訳でもなかろうに。中国のイデオロギーとは共産主義に基づく冊封体制のことだから、「競争と協調の両方を取り入れていくことが、これからの進むべき正しい道だ。」と言っても虚しく聞こえるだけだ。

「現在起きていることの悲劇は、トランプ政権が米中という大国同士の戦いを始めると同時に、同盟諸国を攻撃し、米国が主導して築いてきた戦後の体制を破壊していることだ。」と言うのも間違い。現在米中摩擦の主役は米国議会であり、トランプはその実行機関だ。グローバリストが中国はじめ世界に投資している間に米国民はすっかり貧乏になり、米国内の社会資本は老朽化し、米国はその負担に耐えられなくなっているので大盤振舞いを中盤振舞いにしようとしているだけだ。

つまるところMartin Wolf氏は不勉強なだけなのか、中国の利益の為に働いている多くの白人の一人なのか、どちらかだろう。

この様な国際情勢で日本はどうすべきか?日本の歴史が中国やロシア等の大陸の大国から独立を守る歴史だったことは白村江の戦い以来の歴史を顧みれば分かる。中国からの攻略から日本を守るには米国との同盟が不可欠だ。日本の産業界は中国のプロパガンダに惑わされず中国への投資を損切りし、日本人社員を本国に戻し、米国と組んで第2の中国を他に作るべきだ。

資料;https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45771590W9A600C1TCR000/
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