
リベラルがなぜトランプ氏を罵るのか

「米の変質、金権政治の果て」という題のコラムが2018年7月19日の日経新聞に載っている。コラム子はFINANCIAL TIMESのチーフ・エコノミクス・コメンテーター マーティン・ウルフ氏だ。ウルフ氏はこれまでもリベラルの立場からトランプ大統領を口を極めて罵っている。トランプのせいで、かつて光り輝いていたアメリカは失われ、それはもう戻らない、という様に、だ。
日本のマスコミのトランプ大統領に対する論調は米国のリベラルなマスコミのコピーに近い。日経新聞がウルフ氏のコラムを掲載していることからもそれが分かる。しかし日本人にとってアメリカは自分の好きな様に日本を振り回そうとする侵入者でしかないし、トランプ大統領は日本に対して強権的な中国を抑え込もうとしてくれているので有難い存在なのであって、ウルフ氏の見方とは相容れない。リベラルがなぜトランプ氏を罵るのかを考えてみたい。
ウルフ氏の父親は米国が「世界の人にとって自由と繁栄を保証してくれる存在」と確信し、「第2次大戦前にオーストリアから難民として英国に渡」り、ウルフ氏も「その傾向を受け継いだ。」 欧州で窮乏している一般市民にとって、アメリカにさえ行けば自由で豊かな生活ができる夢の国だった。この感覚は日本人には解りにくいだろうが、「アメリカ・アメリカ」という映画を観ればそれが良くわかる。この映画は「エデンの東」のエリア・カザンが脚本化、製作・演出し1964年に公開された。映画は1896年、トルコで弾圧されているギリシャ人の貧しい青年が自由で豊かなアメリカの話しを聞き、アメリカに移住する決心をし、詐欺や重労働に耐えたあげく、何人かの好意に助けられてアメリカの街で靴磨きをするまでを描いている。見終わって深く考えさせる映画だ。ウルフ氏の父親がこの映画の主人公に近かっただろうことは推察できる。
ウルフ氏は「米国は民主主義のとりで」として「欧州がドイツのナチスや共産主義の独裁の手に落ちるのを救った」し、「戦後の米国の政策には4つの魅力があった。人々を引きつけるような価値観を中心に据え、その価値観を共有する同盟国に忠実で、競争に対し開かれた市場を信じ、様々なルールを制度化して市場を支えた。」と米国が築き上げてきた世界の秩序を誇っている。
それなのに、「民主主義、自由、法の支配といった米国の中核をなす価値観を敵視」するトランプ大統領が誕生したのは「米国が乗り越えられないかもしれない政治的な失敗にある」という。その“失敗”とは何か?それは共和党による「富裕層のための金権政治とポピュリズム」、「貪欲と不満につけ込む政治」であり、「富裕層が組織立った形で、利益の飽くなき追求を続けてきた」結果であり、「低所得層を文化や人種によって分断し、選挙区割りを共和党に都合よくどんどん進め、有権者による投票を難しく」したせいだとウルフ氏は言う。従って、トランプ大統領は自分を指示した貧乏な白人たちの期待には応えられないだろうとも言う。
だが、本当にそうなのか。米国は「民主主義、自由、法の支配」の宣教師として日本を含むアジア、中東の多くの国々と戦争した。米国は中東で日本の様に成功しようとしてバグダッドに侵攻した。だが、その後中東が日本の様に変化しないことを体験し、少しずつ自分の理想主義の失敗に気が付いた。米国は日本でしかこの宣教の戦いに成功しなかったと言える。だが、日本にしても「民主主義、自由、法の支配」は1000年以上前から在ったものだから、米国は日本でもこの宣教の戦いに失敗したと言って良い。つまり、米国の理想主義は世界で失敗したのだ。米国はベトナムでも失敗した。これはウルフ氏のようなリベラルにとって重大事件だ。「人々を引きつけるような価値観を中心に据え」それを世界に広める活動の正当性が成立しなくなったのだから。
そして米国がこの理想主義の戦いに邁進している間に米国の資本主義の精神は少しずつ変質し堕落して行った。金持ちは庶民からより多くの金を吸い取ってますます金持ちになり、社会を維持する基盤となる中間所得層が消滅し、多数の窮乏した貧乏人が残り、自殺者と犯罪が増えた。そして米国は世界の警察官を続ける余裕を失っていった。この傾向は民主党政権の間も進んでいたのだから、トランプを非難するのは当たらない。
トランプ氏は米国の窮乏した白人層の指示を受けて大統領に当選し、今のところ公約の実現に成功している。GDP成長率は4%を超え、失業率は2000年以来の最低水準(4.1%)に下がり、米国の雇用を奪った中国と貿易戦争に勝利して雇用を米国に戻そうとしている。もしこの傾向が続けばトランプ大統領は米国を再生した大統領として歴史に名を残すだろうし、ウルフ氏は恥ずかしい思いをするだろう。この場合、日本は米国と歩調を合わせていれば良い。もしこの傾向が進んだ場合、ウルフ氏が指摘した米国社会の所得の一極集中と社会の荒廃が更に進むことになる。
この問題を米国は解決できるだろうか。この問題をもって資本主義の終焉と言う者もいるくらいだ。ウルフ氏は「我々はかつての米国を取り戻すことができるだろうか。それは普通の人々のニーズや不安に応えるのに、もっと政治的に優れた方法を見いだすまでは難しいだろう。」とコラムを締め括っている。彼が控えめに望んでいる「もっと政治的に優れた方法」は社会主義を指すのだろう。ウルフ氏には世界で最も成功した社会主義国(ゴルバチョフ)日本を見よ、と言いたい。日本こそ米国が目指すべき社会モデルなのだ。
資料;https://www.nikkei.com/article/DGKKZO33103690Y8A710C1TCR000/
https://movie.walkerplus.com/mv455/

「米の変質、金権政治の果て」という題のコラムが2018年7月19日の日経新聞に載っている。コラム子はFINANCIAL TIMESのチーフ・エコノミクス・コメンテーター マーティン・ウルフ氏だ。ウルフ氏はこれまでもリベラルの立場からトランプ大統領を口を極めて罵っている。トランプのせいで、かつて光り輝いていたアメリカは失われ、それはもう戻らない、という様に、だ。
日本のマスコミのトランプ大統領に対する論調は米国のリベラルなマスコミのコピーに近い。日経新聞がウルフ氏のコラムを掲載していることからもそれが分かる。しかし日本人にとってアメリカは自分の好きな様に日本を振り回そうとする侵入者でしかないし、トランプ大統領は日本に対して強権的な中国を抑え込もうとしてくれているので有難い存在なのであって、ウルフ氏の見方とは相容れない。リベラルがなぜトランプ氏を罵るのかを考えてみたい。
ウルフ氏の父親は米国が「世界の人にとって自由と繁栄を保証してくれる存在」と確信し、「第2次大戦前にオーストリアから難民として英国に渡」り、ウルフ氏も「その傾向を受け継いだ。」 欧州で窮乏している一般市民にとって、アメリカにさえ行けば自由で豊かな生活ができる夢の国だった。この感覚は日本人には解りにくいだろうが、「アメリカ・アメリカ」という映画を観ればそれが良くわかる。この映画は「エデンの東」のエリア・カザンが脚本化、製作・演出し1964年に公開された。映画は1896年、トルコで弾圧されているギリシャ人の貧しい青年が自由で豊かなアメリカの話しを聞き、アメリカに移住する決心をし、詐欺や重労働に耐えたあげく、何人かの好意に助けられてアメリカの街で靴磨きをするまでを描いている。見終わって深く考えさせる映画だ。ウルフ氏の父親がこの映画の主人公に近かっただろうことは推察できる。
ウルフ氏は「米国は民主主義のとりで」として「欧州がドイツのナチスや共産主義の独裁の手に落ちるのを救った」し、「戦後の米国の政策には4つの魅力があった。人々を引きつけるような価値観を中心に据え、その価値観を共有する同盟国に忠実で、競争に対し開かれた市場を信じ、様々なルールを制度化して市場を支えた。」と米国が築き上げてきた世界の秩序を誇っている。
それなのに、「民主主義、自由、法の支配といった米国の中核をなす価値観を敵視」するトランプ大統領が誕生したのは「米国が乗り越えられないかもしれない政治的な失敗にある」という。その“失敗”とは何か?それは共和党による「富裕層のための金権政治とポピュリズム」、「貪欲と不満につけ込む政治」であり、「富裕層が組織立った形で、利益の飽くなき追求を続けてきた」結果であり、「低所得層を文化や人種によって分断し、選挙区割りを共和党に都合よくどんどん進め、有権者による投票を難しく」したせいだとウルフ氏は言う。従って、トランプ大統領は自分を指示した貧乏な白人たちの期待には応えられないだろうとも言う。
だが、本当にそうなのか。米国は「民主主義、自由、法の支配」の宣教師として日本を含むアジア、中東の多くの国々と戦争した。米国は中東で日本の様に成功しようとしてバグダッドに侵攻した。だが、その後中東が日本の様に変化しないことを体験し、少しずつ自分の理想主義の失敗に気が付いた。米国は日本でしかこの宣教の戦いに成功しなかったと言える。だが、日本にしても「民主主義、自由、法の支配」は1000年以上前から在ったものだから、米国は日本でもこの宣教の戦いに失敗したと言って良い。つまり、米国の理想主義は世界で失敗したのだ。米国はベトナムでも失敗した。これはウルフ氏のようなリベラルにとって重大事件だ。「人々を引きつけるような価値観を中心に据え」それを世界に広める活動の正当性が成立しなくなったのだから。
そして米国がこの理想主義の戦いに邁進している間に米国の資本主義の精神は少しずつ変質し堕落して行った。金持ちは庶民からより多くの金を吸い取ってますます金持ちになり、社会を維持する基盤となる中間所得層が消滅し、多数の窮乏した貧乏人が残り、自殺者と犯罪が増えた。そして米国は世界の警察官を続ける余裕を失っていった。この傾向は民主党政権の間も進んでいたのだから、トランプを非難するのは当たらない。
トランプ氏は米国の窮乏した白人層の指示を受けて大統領に当選し、今のところ公約の実現に成功している。GDP成長率は4%を超え、失業率は2000年以来の最低水準(4.1%)に下がり、米国の雇用を奪った中国と貿易戦争に勝利して雇用を米国に戻そうとしている。もしこの傾向が続けばトランプ大統領は米国を再生した大統領として歴史に名を残すだろうし、ウルフ氏は恥ずかしい思いをするだろう。この場合、日本は米国と歩調を合わせていれば良い。もしこの傾向が進んだ場合、ウルフ氏が指摘した米国社会の所得の一極集中と社会の荒廃が更に進むことになる。
この問題を米国は解決できるだろうか。この問題をもって資本主義の終焉と言う者もいるくらいだ。ウルフ氏は「我々はかつての米国を取り戻すことができるだろうか。それは普通の人々のニーズや不安に応えるのに、もっと政治的に優れた方法を見いだすまでは難しいだろう。」とコラムを締め括っている。彼が控えめに望んでいる「もっと政治的に優れた方法」は社会主義を指すのだろう。ウルフ氏には世界で最も成功した社会主義国(ゴルバチョフ)日本を見よ、と言いたい。日本こそ米国が目指すべき社会モデルなのだ。
資料;https://www.nikkei.com/article/DGKKZO33103690Y8A710C1TCR000/
https://movie.walkerplus.com/mv455/
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