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KenConsultingの本多謙が政治/経済記事を独自の視点で評論します

AI独裁ばらまく中国 拡販される監視システム

中国の監視カメラシステムの危険性を指摘したコラムが19/6/8付日経新聞9面に載った。日経新聞コメンテーター 秋田浩之氏のコラムだ。秋田氏は中国が「街のすみずみに監視カメラを置き、顔認証で特定の個人を追いかけ」、「クレジットカードや交通違反の履歴、国への貢献」などの個人の行動履歴を「人工知能(AI)を使」って処理し、「一人ひとりに点数を付け、管理する」「AI独裁ともいえる体制」を開発し、それを世界に広めつつあることに警告を発している。

このコラムは中国べったりだった日経新聞の論調にようやく変化が現われたという感じだ。だが、日経新聞ならもっと踏み込んだ評論があって良いと思う。それは資本主義や共産主義の基礎になっている思想の問題だ。どんな経済行動にもその基礎となる思想がある。我々には当たり前過ぎて当然のことも国が違えば当然ではなくなる。

ITシステムを駆使した中国の監視システムは強権的な国や旧共産主義/社会主義国にとって理想的な権力基盤になる。このシステムを使えば悪の国家は個人の行動や思想を逐一把握し、自分の都合で逮捕し裁判にかけ、場合によっては死刑にすることもできる。文化大革命時代にこのシステムがあれば殺された者の数は数千万では済まなかっただろう。逆に、善の国家や企業はこのシステムを使って国民の問題や要求を詳細に吸い上げ、それを解決する施策を迅速に打てることになる。

中国の監視システム
出典;日経新聞 2019/6/8付

秋田氏の論旨は以下の通りだ。

一帯一路による「目に見えるインフラ整備よりも、中国によるAI監視システムの拡散のほうが、世界への影響は深刻だ。中国が港や鉄道をつくったからといって、その国の民主主義が後退するとは限らない。しかし、民主的といえない国々に高度な監視システムが渡れば、さらに強権政治に染まってしまう恐れがある。」「もう一つ気がかりなのは、中国がハード面だけでなく、法体系というソフト面でも、デジタル独裁のノウハウを拡散していることだ。そのひな型が2017年6月、中国が制定したインターネット安全法である。」これを使えば「中国内の外国企業も『国家の安全』を理由に情報の開示を迫られ、拒めば処罰されかねない。」これに対する日米欧豪の対処方は2つあって、第1は「中国の監視システムに依存するリスクについて、各国に説明していくこと」であり、第2は「日米豪や欧州連合(EU)が歩調をそろえ、デジタル空間の国際ルールづくりを急ぐこと」だ。

秋山氏の提案は残念ながら日米欧豪他数か国にしか通用しないだろう。何故なら、これらの国にとって言葉による合意(契約書などの文言)は絶対の正義であって契約者はその文言通りに行動しなければならないが、中国の文化圏では言葉による合意は建前でしかなく、自分の本来の野望を隠して相手を騙すプロセスに過ぎない。兵は詭計だと孫子も言っている。この様な相手と平和な関係を維持するには相手を凌ぐ軍事力と経済力を背景に交渉し、契約し、契約を守らせることしかない。

だが、この中国発監視システムに関連する警鐘は19/2/14付日経新聞6面のコラム「『監視資本主義」の衝撃」でFinancial TimesのJohn Thornhill氏が既に述べている。これは発展する科学技術が資本主義の定義をどう変化させるか、という問題だ。これを別稿で紹介したい。


資料; https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45830760X00C19A6TCR000/

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「米『対中100年戦争』の愚」を排す

今起こっている米中戦争を愚かだと言うコラムをMartin Wolf氏(英フィナンシャル・タイムズのコラムニスト)が2019年6月7日の日経新聞朝刊6面に掲載している。題名は「米『対中100年戦争』の愚」だ。これを読んだ感想は、これは①中国を公平に見ていないな、と②中国のプロパガンダは排さねばなるまい、ということだった。詳しく説明したい。

Wolf氏は英国人だから基本的に米国に対して冷笑的だし、第2次世界大戦後の欧州の破壊と混乱の中を苦労して英国に移民した父親の息子として、戦後米国が構築した自由な世界経済システムの中で育ったから、そのシステムを破壊する様な変化には拒否反応を示す様だ。だから、米国が過去30年に亘って築いてきた自由な世界資本主義システムと米国資本の投資を利用して経済成長して来た優等生の中国を擁護することになるのだろう。(Wolf氏のコラムは過去に何度も日経新聞に掲載され、筆者も何度か論評したことがあるから、過去記事を参照されるとよい。)

米中対決


それに、米国憎しの余り中国に有利で米国に不利になる状況しか提示していない。例えば「今年のビルダーバーグ会議」の結論は、“米国はロシアをやっつけ足りなかったが、「ついに敵対するに値する相手が現れた」”というものであり、その「狙いは米国の覇権の維持」であり、「その手段は、中国を支配するか、中国との関係をすべて断つかだ。」といった具合だ。なぜ彼は「中国に騙された。このままだと中国が世界を支配してしまう」という米国の危機感は理解しないで、ウイグル、チベット、満州、内モンゴルでの民族浄化、南沙諸島の軍事基地化、日本の尖閣諸島、弱小国を借金漬けにして自分の奴隷にする一帯一路外交に触れないのだろうか?

Wolf氏は中国が、米国が構築したWTOなどの世界経済の枠組みの“よい子“として振舞って来たのであり、米国の『力のある国が何が正しいかを決める』という対中交渉は間違いであり、多少の誤解や逸脱があっても「丹念に話し合えば解決できるかもしれない」と言う。だが、米国は中国のその場しのぎの甘言を真に受けて30年近く中国を支援し、豊かになれば国際社会の良きメンバーになるだろうと期待していたのが裏切られたと思っている。

中国は自分の真の目的を隠してその場限りの嘘を連ねる。例えば南沙諸島に人工島を作り始めた時中国は世界に、「小さな観測基地を作るだけ」と言い、次に「人が済める施設を作るので武器は持ち込まない」と言い、最後に「軍事基地を作るのは中国の当然の権利だ」と言い、戦闘機や爆撃機が離発着できる様にした。これだけでも中国の言う事が信用できないことが分かる。こんな国と協議して契約して何の意味があるのだろうか?

習近平の求めているのは「偉大な中華民族の復興」であり、アヘン戦争前の中国の覇権と名誉を取り戻すことなのだが、それは西欧や日本を含む全世界が中国に朝貢するという冊封体制であり、その実現のために軍事力を積極的に使う、ということだ。米国は中国に共産主義政権を建てる為に様々な工作をした。先ず、国民党政権を支援して日本軍と戦わせ、日本に戦争を仕掛けて敗退させ、国民党への支援を止めて台湾に追い遣り、鄧小平を支援して中国を開国させ、投資して中国を自国の製造基地にしようとした。米国にとって中国は金も時間もかかった作品なのだ。だが、習近平は米国を凌いで世界の覇権を獲ろうとした。これが米国にとって許容できないことは確かだ。例えば、世界の5Gの通信技術と市場を握れば世界の軍事システムと経済システムと消費者のプライバシーを手中にできる。中国は西側から盗んだ技術でそういうシステムを既に完成し、ウイグルやチベット人の行動を逐一監視し暴力を使って彼らを従わせている。チベットの僧侶達が絶望のあまり自殺し、それが続いて久しい。

Wolf氏は米国務省のキロン・スキナー政策企画局長が「中国政府との対立は『まったく異なる文明、異なるイデオロギーとの戦いであり、米国が過去に経験したことのない戦いだ』」と述べたことに危機感を示す。確かに、スキナー氏は日本のことを忘れているが、「偉大なゲルマン民族の復興」を掲げて第二次世界大戦を起こしたドイツも忘れている。“忘れている”と言うよりこの2国は“既に米国と緊密な軍事同盟国になったので言わなくても良い”の方が当たっている。中国は「遅れて来た青年」なのかも知れない。

Wolf氏は「中国のイデオロギーは」「自由民主主義の脅威になるようなものではない。」と言うが、これは間違い。ウイグルやチベットの惨状を全く知らない訳でもなかろうに。中国のイデオロギーとは共産主義に基づく冊封体制のことだから、「競争と協調の両方を取り入れていくことが、これからの進むべき正しい道だ。」と言っても虚しく聞こえるだけだ。

「現在起きていることの悲劇は、トランプ政権が米中という大国同士の戦いを始めると同時に、同盟諸国を攻撃し、米国が主導して築いてきた戦後の体制を破壊していることだ。」と言うのも間違い。現在米中摩擦の主役は米国議会であり、トランプはその実行機関だ。グローバリストが中国はじめ世界に投資している間に米国民はすっかり貧乏になり、米国内の社会資本は老朽化し、米国はその負担に耐えられなくなっているので大盤振舞いを中盤振舞いにしようとしているだけだ。

つまるところMartin Wolf氏は不勉強なだけなのか、中国の利益の為に働いている多くの白人の一人なのか、どちらかだろう。

この様な国際情勢で日本はどうすべきか?日本の歴史が中国やロシア等の大陸の大国から独立を守る歴史だったことは白村江の戦い以来の歴史を顧みれば分かる。中国からの攻略から日本を守るには米国との同盟が不可欠だ。日本の産業界は中国のプロパガンダに惑わされず中国への投資を損切りし、日本人社員を本国に戻し、米国と組んで第2の中国を他に作るべきだ。

資料;https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45771590W9A600C1TCR000/

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「ファーウェイ問題」とはそもそも何なのか?

「ファーウェイ 衝突する『正義』」と題して日経新聞本社コメンテーターの中山淳史氏が、ファーウェイ問題は中国と米国の正義のすれ違いなのだから 「サイバー空間の安全性を確保する技術を米中で模索する」べきだと2019年5月25日のDeep Insight欄で述べている。

中山氏はファーウェイが、米国との衝突を避けるために米国社の傘下に入ろうとさえしたが失敗したこと、そのCEOが「国際法と各国の法規を守り、レッドライン(一線)を絶対に越えない」様にしていると言っていることを紹介している。更に「米欧各国が同社と中国政府の関係について様々な報告書を公表しているが、『政府・共産党の会社』と言い切るだけの確証はない。」とも述べ、そもそもF社が従業員の持ち株会社で民主的な会社だと言い、F社が、聞き分けの良いヨイ子なのに「米中貿易摩擦のとばっちり」を受けて困っているという印象を読者に植え付けようとしている。

だが、それは正しいのか?例えば5Gの特許取得数はF社が最も多く、F社が5Gで世界のイニシアティブを獲ろうとしていることが分かる。これは「よゐ子」のすることではない。その特許もほとんどが周辺特許で、核になるものはないと聞く。

HuaWei実績


そもそもファーウェイ(以下F社と呼ぶ)というのはどういう会社なのか?ファーウェイは“華為”と書く。“華為”は創業者の任正非氏が「中華の為に」という意味を込めて命名した会社だが、そこには中国の覇権を世界に広めようという意図を込めたものだ。任氏は人民解放軍出身であり、中国共産党の強力な支援を基に急成長した。中山氏はF社が従業員の意思で経営されている様に言うが、それは間違いだ。中国が共産主義国であることを忘れてはならない。中国の企業にはその中に共産党の支部を置くことが義務付けられており、共産党の指導に従わなければならない。主な経営者も従業員も共産党員であり、彼らは党中央の指示に従わなければならない。今日中国で成功している企業は皆中国共産党配下の企業だ。中山氏はこんなことも知らないはずはあるまいが。

中山氏は任氏を「どこにでもいそうな創業経営者」だというが、彼の実娘はF社の副会長を務め、昨年12月にカナダの空港で逮捕された時7つのパスポートを持っていたという。中国政府の“強力な”支援が無ければこの様なことは不可能だし、その支援はF社が中国共産党に仕えていたからこそ得られたと考えるのが自然だ。F社の急成長の要素は2つある。1つは共産党からの大規模な財政・要員・市場の支援であり。2つ目は中国政府の世界のネットワークを活かした、世界から、主に米国からの技術情報の窃取だ。これは鄧小平時代以来のものだ。日本もその対象でないはずがない。

知的資産に対して正当な対価を支払わなければ、そして膨大な研究費を支払わないでその成果だけを享受できるなら、正直な国や企業はたまったものではない。米国の主要な研究機関や大学は既に中国系研究者を締め出している。日本はどうか?更に恐ろしいことは、ジョージ・オーウエルの「1984年」も真っ青の監視システムをF社が構築してチベットやウイグルなどの国民一人一人を精細に監視し、そのシステムが外国に販売されていることだ。つまり我々が持っている人間や生命の尊厳についての認識がまるで違う非人道的な監視システムが世界に広められようとしているのだ。

更に、言論に対する認識も中国は異質だ。日本人であれば一旦宣誓したことは命をかけて守らなければと思うが、中国は米国の招きでWTOに加盟した時の約束を反故にし、更には言を翻して南シナ海を軍事基地化している。米国が問題にしているのは西側諸国の仲間に入れてもらった時の約束を中国が誠実に履行しないでかえって米国を凌駕し世界の覇権を獲り世界を中国式の統治システム(冊封体制)に組み込もうとしている事なのであって、F社の問題はその一部に過ぎないのだ。今後類似の問題がF社以外にも発生するだろう。

中山氏は「ファーウェイのサプライチェーン(供給網)を分断するだけでは米国や同盟国の産業にも打撃が及び、インターネットそのものの分断につながる懸念もある。正義を互いに振りかざすより、サイバー空間の安全性を確保する技術を米中で模索するのが賢明だと」いうが、米国は中国との供給網が途切れてもその代わりは容易に作れるので問題は無い。日本も同じだ。ベトナムや中南米など代りはいくらでもある。インターネットに至っては、中国が構築したインターネット網は世界から既に孤立している。だから、F社のシステムにバックドアがあるかどうかを話し合おうと呼びかけても意味が無い。無駄なコメントはしないほうが良い。

日本の通信システムや端末産業の凋落と惨状は知っての通りだ。この状況を千歳一隅のチャンスととらえ、日本にNOKIAや華為に代わる5Gを含む産業を育てようと、日経は経団連や国会議員や霞が関はどうして考えないのだろうか?不思議でならない。

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「中国の一帯一路 多国間の協力で」とはどういうことだ?

日経新聞2019年5月18日の「Asiaを読む」欄にルーマニア・アジア太平洋研究所副所長のアンドリーア・ブリンザが「中国の一帯一路 多国間の協力で」という題で中国が一帯一路をAIIBの様な多国間の仕組みに変える案を紹介している。彼女は中国の「一帯一路」が世界の非難の的になったのは、それが中国と他国による2国間のやり取りだからであり、それを改善するには「一帯一路を多国間の形態」にすれば良いと言う。そしてそれに関する問題点をいくつか挙げ論じた後、「中国側は『一帯一路は、中国が世界に提供できる最も重要な公共財』と訴えてきた。本当かどうか証明するため、中国は一帯一路を開放し、国際社会が将来をかたちづくるのを認めるべきだ。」という文でコラムを閉じている。

これに対して日経新聞編集委員の飯野克彦氏はこの提案を支持し、中国がこの提案を採用する可能性について事例を挙げ、それが中国にとっても得になることだと述べている。

なんか怪しい、というのがこの記事を読んだ筆者の感想だ。最初の疑問は、中国の一帯一路が世界中からバッシングされ米中貿易戦争が激しさを増している現状で、なぜ小国ルーマニアの有名でもない研究所の研究者がこの提案をしたか?ということであり、次の疑問は、なぜ日経新聞がこんな無名の研究者の大して大きくもない話題を記事に載せ宣伝したか?だ。

中国は一帯一路が世界から貧乏国を債務の罠に陥れてその国を自分の思うように動かそうとしていると世界から非難されているのでその払拭に賢明になっている。だから、AIIBのビジネスモデルを一帯一路にも採用してそれを多国間の枠組みに変質させようという提案には乗るかも知れない。あるいは中国が世界からの批判をかわす為にあえてこの提案の観測気球を何らかの形で誰かに上げさせて様子を見ようと考えたのかも知れない。そこで、世界のルーマニアのマイナーな研究者に論文を書かせ、それを日経新聞の掲載させた、というシナリオが浮かび上がる。ちなみに、中国は一帯一路でEUを分断しようとしていて、ルーマニアを含む中・東欧16か国は一帯一路構想の覚書に調印している。ルーマニアは中国が約束した原子力発電所がまだ出来ていないと文句を言っているから、ちょっと中国寄りの発言をして中国の気を引きたいところかも知れない。要するに、参加国は、AIIBと同じで中国の大盤振る舞いを期待し、なお且つ自国の権益は守りたいのだ。

EUに加盟する28国  出典;https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/page22_000083.html
EUに加盟する28国  出典;https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/page22_000083.html

日経新聞は中国への投資をこれまで散々煽って来た実績がある。だから、中国が一帯一路に対する非難の嵐を逸らそうとする動きに協力するのもたやすいことだろう。だが、日経新聞の編集委員が現時点でこの提案を推すのは安易に過ぎないか?何故なら、中国が手本にしようとしているAIIBは確かに多国間の組織だが中国にしか利益にならず、日米共に参加しておらず、成功していないからだ。それに一帯一路の発想の源は唐、明時代の中国の覇権を取り戻そうとするものだから、たとえ一帯一路が多国間の枠組みを運営されようともそれは中国の利益だけの為になるだろうことは明々白々だからだ。更に、中国が一帯一路で他国に与える援助の原資は対米貿易の黒字でありそれが急速に減少しているので中国は従来の様に気前のいい旦那ではいられなくなってきている。

飯野氏は「関わっている中国の部門・機関が多いので、容易な課題ではない。共産党政権の意思統一がまず必要になる。」と訳の分からないことを言っている。共産主義政権の第一の特徴は党の一極支配で核心である習が提案していないものを誰が提案しているのだろうか?それは中国共産党の一部なのだろうか?それともトランプなのだろうか?

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「重すぎる日本のIoT」?ってそこじゃないだろ!

日経新聞2019年4月23日の「Deep Insight」欄にコメンテーターの中山淳史氏が「重すぎる日本のIoT」という題で日本は中国のIoTの実験に後れを取ってはいけないと警鐘を鳴らしている。だが、同じページの下段には「欧米の大衆政策、今は団結モード」という題の英エコノミストの記事の載っていて、中国の投資に警鐘を鳴らしている。どちらの記事の方向に日本政府と企業は進むべきだろうか?

中山氏は先ず「米中摩擦の影響でヒト・モノ・カネの動きが緩慢になり、技術革新に冬の時代が訪れる」懸念を紹介して問題点を提示し、次に「米シリコンバレーと関係が深い中国南部の深圳を歩いた。率直に言えば、『冬の兆し』はあまり感じられなかった。」と中国にとって好意的な結論を述べている。だが、これむはとても中国寄りだ。

即ち「日本はインフラや工場の自動化など」の「『重いIoT』に関心が向きがちだが、身近な技術革新がより多く待ち構えるのは軽いIoTかもしれない。まずは日本企業も中国の産業基盤を試したり、創業の現場に立ち合ったりしてみる価値はある。手をこまぬいているとむしろ、機会損失がとても大きくなる可能性がある。」と、中国発のバスに乗り遅れないように煽ってコラムを閉じている。そしてその理由として「深圳、香港、マカオを合わせた「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」で巨大な再開発計画が始まり、そこには米サンフランシスコ湾や日本の首都圏に匹敵する経済圏が生まれる予定であり、スタンフォード大、ジョージア工科大など米欧、香港の大学と中国の大学・企業が連携する計画が目白押し」であることを述べている。

中国は単純な加工組立て産業を脱してハイテク産業育成に注力しており、その為に日本を含む西側先進諸国からの投資と技術が欲しいのだ。中国には外貨が不足していることもある。共産党主導の国家資本主義では西側資本主義国ができないハイテクサービスが自由に大々的に試せるので欧米産業界は投資しようとしており、日本企業はこのバスに乗り遅れると損しますよ、というのが中山氏の主張だ。

だが、中山氏は過去に日本企業がどれ程中国に投資しどれ程の利潤を日本に持ち帰れたかご存知だろうか?ゼロだ。なぜなら中国とは資本取引ができないからだ。また、何人の日本人企業人が中国国内で足止めをくらって帰れなくなったかをご存知だろうか?欧米企業はこれらのリスクを考えて中国の甘い罠に対し警戒モードだというThe Economistの記事が日経新聞の同じページの下段に掲載してあるのは皮肉だ。

Economist子は、数年前まで北京の外交官の間では「自国が中国といかに仲がいいかという自慢話を発言の間に滑り込ませていたものだ。中国は扱いにくいとぼやいてみせる」傾向が「影を潜めるように」なり、中国に好意的な「16プラス1」の国々は「中国から期待したほどの商機や投資を実現できないこの枠組みに次第にうんざりし、不満を高めて」おり、中国が「参加国を借金漬けにし、環境を破壊し、アフリカやアジア、アジア太平洋の多くに中国の基準を導入することで他国の参入をできなくしてしまう」ことを懸念し、「中国当局は新疆の再教育キャンプに数十万人に上るイスラム教徒の少数民族ウイグル族を収容し、さらに数百万人を厳しい監視下に置いているとして非難を浴びている。」と述べている。この為西側諸国は天安門事件の後“ゆるく”団結したように今は反中国で団結モードだ、というのだ。

これを読むと西側先進諸国が「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」に投資しようという雰囲気だとはとても思えない。中山氏は中国お薦め記事を書くならリスク要因にも留意して書いて欲しいと思う。

中国の西側社会に対するメッセージは「
(1)中国の台頭は避けられない 
(2)中国に協力する国は多大な恩恵を受けられる 
(3)従って抵抗しても無駄だ、」
という力で押さえつけるものだ。この強権的姿勢が中国に対する警戒感を持たせることになっただろう。そうした中国の対外活動の原資が米中貿易からの巨大な黒字だったが、これは米中貿易摩擦で急激に減少しつつある。

米国の圧力に不満な日本の指導者たちは中国に肩入れし中国への投資を扇動する者も多いが、だからといって親中国路線が反米国以上のものを日本にもたらすのだろうか。それは一帯一路を受け入れた国々の現状を見れば明らかだ。彼らは日本をチベットやウイグルや旧満州国の様にしたいのだろうか?

米国と中国は世界の覇権を巡って対立しているが、この対立はそれ以上に自由や平等などの価値観の争いだ。経済活動はそれを支える思想が背後にあってこそ成り立つ。

日本はどっちにも良い顔を見せようとしている。且つて天安門事件後、西側先進諸国は団結して中国を経済封鎖したが、その団結を崩すきっかけを作ったのは日本の天皇の訪中だった。日本は中国を救ったのだが、その結果中国は日本の領土を侵害しようとし、米国を凌いで世界の覇権を握り、中国の独裁政治、国家資本主義を世界に押し付けようとしている。日本は中国に利用されたのだ。日本はこの二の舞をしてはならない。

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