
2020年1月以来の新型コロナ禍から世界は徐々に元に戻ろうとしている。日本では安倍首相は5月25日緊急事態を全面解除した。中国武漢から発生した新型コロナウイルスにより5月末時点で世界では600万人が感染し36万人が死亡した。米国では600万人が感染し36万人が死亡した。中国大陸では公式には5千人が死亡したことになっているが、実際は2000万人以上だろうと言われている。西欧世界では都市封鎖が行われ、経済活動が止まり倒産や失業が増えた。
各国の政府はコロナ禍での被害より感染対策による被害の拡大を怖れて経済を再開させつつある。しかし一旦委縮した経済や消費行動はなかなか元に戻らない。例えば航空業界は今後長期低迷が続き、おそらく元の規模には戻らないと見られている。人の移動を前提にした経済行動や消費行動がビデオ会議などで人が移動しないものに変ってしまったからだ。中国は西側諸国がコロナ禍対応に必死な隙を突いて国家安全法を成立させて香港の自治を剥奪し、トランプ大統領はそれを受けて5月30日中国に宣戦布告するに近い演説をした。
他コロナ後の世界がコロナ前からどの様に変わるかについて多くの議論がなされている。最大の焦点は旧来のグローバリズムが崩壊したという点だろう。コロナ前は、グローバリストは自分こそが世界のあるべき姿を実現するリーダーだとみなし、ポピュリストに対抗して自らの正当性を誇示していた。ポピュリストとはグローバリストがナショナリストを「大衆の動きに迎合した者」と侮蔑した呼び方だ。コロナ前のグローバリストがグローバリズムをどの様に認識していたのだろうか?それを解説するコラムが2019年7月26日の日経新聞FINANCIAL TMES欄に載っているので紹介したい。そしてグローバリズムは今後どうあるべきかについて考えてみたい。
このコラムの題名は「健全なグローバル主義が依然、必要な理由で著者はグローバルエコノミストコメンテータのMartin Wolf氏(以下W氏)である。題名から、W氏はこのコラムでポピュリストの攻勢からグローバリストを擁護したいことが分かる。先ず彼は宇宙船から撮影した丸い地球の写真を示し、これから導き出されたグローバリズムの概念を提示する。それは①「この宇宙から撮った美しい青色の球体の地球の写真」を見て「人は皆、互いに密につながっており、複雑な生態系の一部をなす」と思うのであり、②「人に共通することは全ての人間に共通すると」考えるべきであり、③我々は「道徳的にも現実的にも」「我々は地球的視野で物事を考える必要がある」のであり、④それは「経済だけの話ではな」く「人間は皆、グローバルな責任を負い、推進すべき共通の利益がある」のであり、⑤その推進単位「国民国家」が、「これをはるかに超えた」「人間全体として考える必要がある」と言う。

W氏はこの観念を現実のものにする為に「世界的公共財」という指標を提示する。世界各国が協調してグローバリズムが進展するほどこの指標が増えるのだ。W氏によればグローバリズムは、第2次世界大戦の惨禍は各国のエゴが衝突した結果でありその惨禍を繰り返さない為に第2次世界大戦の戦勝国が1944年に作った米国主導のブレトンウッズ体制から始まる。W氏はブレトンウッズ会議後75年間のグローバリズムの成果として「絶対的貧困層の割合が世界人口の10%を切った」ことを挙げ、「経済や社会が複雑になるに従い必要な公共財も」世界規模で「大幅に増え」ていると指摘する。我々が「生物圏を分かち合っている」以上「環境をグローバルに保護すること」、平和、「予測可能で開かれて安定した世界経済」、「経済発展」も公共財だという訳だ。しかし、「グローバルな公共財というのは、各国が協力して初めて実現する」ので「各国が協力を拒めば、公共財を創り出すことはできない。」従ってW氏は世界の繁栄と安定をもたらす世界規模の公共財を供給し維持する必要があり、その為の課題を3つ挙げている。
第1は、民主主義国家の「アイデンティティーと国民」の利益の相反だ。その例としてW氏は「グローバル化を進める上で最も重要な移民問題は、国際的には進めた方がよくても、国内の支持が得られないと」言う。
第2は、「世界における自国の位置づけと、国内問題のバランスをどう取るか」だ。強国と弱小国の間には金融面のグローバル化、貿易、法人課税、環境などで格差や不公平があり、その為に弱小国内に生じる不満を是正しなければならない。
第3は、最も重要な問題として「国内の失政や利害対立を外国人のせいに」して自国内の外国企業や外国を排除しようとする動きだ。
W氏は締め括りとして「世界規模で考え、行動しなくてはなら」ず、「協調的なグローバル主義を守るべき」であり、国民国家が「排外主義に走」らず「地元、国、地域、国際レベルでの要求と懸念のバランスをと」るべきだ、と言う。
W氏のこのコラムは昨年7月に英FTに掲載されたものであり、10か月後の世界の現状は彼のグローバリズムに対する反論に満ちている。そもそもW氏が言うグローバリズムとは何だったのか?それは「人類は漆黒の宇宙に浮かぶ地球という天体に住む孤独な存在」という印象から来るものだ。1970年代のこの1枚の写真は世界中の人間に人類が広大な宇宙でちっぽけな地球にしか住めない生き物であることを“観念ではなく現実として”理解させたという点で世界史的な事件だった。これ以降欧米の政治経済のメッセージには“this planet”という表現が頻出する様になった。それは「世界中どの人も同じ仲間として共に道徳的にも経済的にも豊かに幸せになるべきだし、その様にして行こう」というものだ。
この少し前に、グローバリズムを実現する手段として機能したのが第2次世界大戦直前に発足したブレトンウッズ体制だという。これは第2次世界大戦の惨禍が西欧各国の利己主義が衝突したからだという反省に立ってこの惨禍を繰り返さないように構築しようとしたもので、当然第2次世界大戦の戦勝国、特に米国が主導した。ブレトンウッズ体制は70年代に破綻したが米国はグローバリズムを主導し続けた。日本は戸惑いながらもそれを受入れた。
米中が国交回復し鄧小平が改革開放路線を始めたのも70年代だ。西側は中国に西側の社会、政治、経済システムや科学技術を提供し、中国に投資し、米国市場を中国企業に開放し、中国をWTOに加盟させて中国企業の成長を助けた。それはグローバリズムの定義に従って中国が西側の良き隣人になることを期待したからだ。そのおかげで中国のGDPは日本を抜いて世界第2位にまで成長した。
だが、その過程は結局西側のグローバリストが期待した通りではなかった。鄧小平が70年代に改革開放路線を始めた時彼は自国民に韜光養晦(とうこうようかい)を説いた。これは「今は野心を隠して実力を蓄えよう」という意味だ。この路線に従って中国は米国を凌駕して世界の覇権を握ろうという野心を隠し、米国の忠実な弟分の振りをし、あらゆる方法で西側の先端技術を吸収し続けた。当然賄賂、ハニートラップ、スパイも横行した。彼等はひたすら自己を無にして西側のシステムを学びそのコピーを自国に再現した。そして中国のGDPが日本を超えたころから中国は自国の覇権を表に出し始めた。習近平が中国最高指導者になった頃に出た一帯一路構想やAIIBがそれだ。中国は共産主義世界革命を中国主導で実現しようとしたのだ。このころから米国は中国の覇権主義に対する警戒感を強めて来たが、武漢発のウイルスがパンデミックを起こし600万人の米国人が犠牲になって中国制裁を強化し始めた。
そもそも、中国は19世紀から米国に肉体労働者を送り込んできたし、第2次大戦中は米国の支援を受けて日本軍に対抗したし、戦後は米国の対ソ連冷戦に協力したから、米国にとって中国が敵になることは想像しにくかっただろう。それに鄧小平は中国を14億人の市場として米国に売り込み、米国はそれにすっかり乗ってしまった。米国は中国人を教育して少しづつ豐かにしていって高価格帯の商品も売れる様にしようと金儲けのシナリオ実現に熱中した。米国の製造業を国内から中国に移し、中国の安い人件費を利用して製造した製品を世界中で販売して利益をあげた。これらは米国が、中国人は適切に教育すれば西側の「同じ仲間」になると思い込んだからだ。西洋人の東洋に対するロマンチシズムもあっただろう。
だが、中国人の民族性は数十年間教育した程度では変わらなかった。そもそも教育で変わるものでもなかったのだ。孫氏の子孫たちは「兵は詭計なり」、つまり“戦争の基本は敵を騙すことだ”の言葉通り理想主義の米国人を何年も欺き続けたのだった。中国は「超限戦」を米国に仕掛けたのだ。これは通常戦に加えて外交、国家テロ、諜報、金融、通信網、法律、心理、メディア等を総合的に組み合わせた軍事戦略であり、攻撃された側はそれをSilent Invasion と呼んだ。西側諸国は中国からの賄賂や嘘によって社会規範が甚だしく腐敗したのを改めて認識した。
ところで、米国がブレトンウッズ会議以来推進して来たグローバリズムは第2次世界大戦の戦勝国の論理を世界に押し付けるものだった。米国は製造工場を中国などに移転した為米国内では製造のノウハウと雇用が失われ、中間所得層が激減し、失業者は貧困化した。製造業を受け入れた後進国では労働者が低賃金で過酷な労働環境に甘んじる他無かった。グローバリズムは先進国の投資家だけを富ませる経済競争原理の別名でもあったのだ。
日本人は、中国に対して遣唐使のころの印象を持っている。中国はこの点を日本に訴えた。これに呼応して日本政府は中国からの留学生を受入れ、中国に技術、法制度、経済運営の仕組みを教え、産業界は中国に投資した。これは日本にとって突飛なことではない。日清戦争後に清から多数の留学生を受入れたし、戦前には「五族(和・韓・満・蒙・漢)協和」、戦後には「人類皆兄弟」が普及していた。日本は文化の先進地としての隋唐時代の中国にロマンを抱いて、中国が再び西側先進国の良き隣人になることを願ったのだ。安倍政権は「ヒト、モノ、カネの最も自由に行き来する国」を目指し中国との交流を進めて来た。その結果在日中国人は73万人に、在中国日本人は12万人に増えた。(2018年)
だが、日本人は現在の中国人が隋唐時代の漢人の子孫ではないことを見落としていた。昔の漢人の血は途絶え、今の中国人は周辺諸国からの征服王朝や毛沢東が中国人の文化文明を消滅せしめた後に残った無頼の者たちなのだ。日本も中国の超限戦の対象であり、Silent Invasionは日本にも起こっているのだ。
さて、2020年5月、中国をめぐる国際政治経済の環境はこの数か月で激変した。引金になったのは武漢発の新型コロナウイルスだ。米国が中国を非難する理由は情報隠蔽のせいでパンデミックを起こし600万人の米国人が犠牲になったのでそれを償え、という他にウイグル・チベットでの人権弾圧、数多のスパイ行為、香港に対する一国二制度の否定など沢山ある。米国は中国を米国から分離する他に関連諸国を糾合し中国に巨額の賠償金を支払わせようとしている。米中冷戦構造のなかで中国は確実に孤立しつつある。国際決済、IT技術、食料を押さえられた中国には勝目は無い。近い将来、中国は清朝末期の様になるか、軍閥が割拠する様になるかも知れない。
この状況で日本の安倍政権は習近平の国賓訪問を進めようとしている。これをやれば日本は中国側の国と見做され米国市場を失うかも知れない。リスクはこれだけではない。中国国防動員法が発令されれば日本にいる73万人の中国人は突然便衣兵になって敵対行動を始めるだろうし、中国にいる12万人の日本人は拘束され人質になるだろう。日本の取るべき政策は明らかだ。
ところで、米国は自らが主導してきたグローバリズムを否定しているのだろうか?そうではない。グローバリズムから中国を排除しようとしていると見做すべきだ。「America first」は米国の負担を削減する為のメッセージで、米国は形を変えてグローバリズムを主導し続けるだろう。日本は米国のグローバリズムの文脈に呼応して行動して来た。今後も東洋における重要なパートナーであり続け、中国からの蚕食を防ぎ、自国の国益と友好国の利益を求め続けるべきだ。では具体的にどうすべきか?これについては次のブログで述べてみたい。
資料;https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47782020V20C19A7TCR000/
2019年7月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/
各国の政府はコロナ禍での被害より感染対策による被害の拡大を怖れて経済を再開させつつある。しかし一旦委縮した経済や消費行動はなかなか元に戻らない。例えば航空業界は今後長期低迷が続き、おそらく元の規模には戻らないと見られている。人の移動を前提にした経済行動や消費行動がビデオ会議などで人が移動しないものに変ってしまったからだ。中国は西側諸国がコロナ禍対応に必死な隙を突いて国家安全法を成立させて香港の自治を剥奪し、トランプ大統領はそれを受けて5月30日中国に宣戦布告するに近い演説をした。
他コロナ後の世界がコロナ前からどの様に変わるかについて多くの議論がなされている。最大の焦点は旧来のグローバリズムが崩壊したという点だろう。コロナ前は、グローバリストは自分こそが世界のあるべき姿を実現するリーダーだとみなし、ポピュリストに対抗して自らの正当性を誇示していた。ポピュリストとはグローバリストがナショナリストを「大衆の動きに迎合した者」と侮蔑した呼び方だ。コロナ前のグローバリストがグローバリズムをどの様に認識していたのだろうか?それを解説するコラムが2019年7月26日の日経新聞FINANCIAL TMES欄に載っているので紹介したい。そしてグローバリズムは今後どうあるべきかについて考えてみたい。
このコラムの題名は「健全なグローバル主義が依然、必要な理由で著者はグローバルエコノミストコメンテータのMartin Wolf氏(以下W氏)である。題名から、W氏はこのコラムでポピュリストの攻勢からグローバリストを擁護したいことが分かる。先ず彼は宇宙船から撮影した丸い地球の写真を示し、これから導き出されたグローバリズムの概念を提示する。それは①「この宇宙から撮った美しい青色の球体の地球の写真」を見て「人は皆、互いに密につながっており、複雑な生態系の一部をなす」と思うのであり、②「人に共通することは全ての人間に共通すると」考えるべきであり、③我々は「道徳的にも現実的にも」「我々は地球的視野で物事を考える必要がある」のであり、④それは「経済だけの話ではな」く「人間は皆、グローバルな責任を負い、推進すべき共通の利益がある」のであり、⑤その推進単位「国民国家」が、「これをはるかに超えた」「人間全体として考える必要がある」と言う。

W氏はこの観念を現実のものにする為に「世界的公共財」という指標を提示する。世界各国が協調してグローバリズムが進展するほどこの指標が増えるのだ。W氏によればグローバリズムは、第2次世界大戦の惨禍は各国のエゴが衝突した結果でありその惨禍を繰り返さない為に第2次世界大戦の戦勝国が1944年に作った米国主導のブレトンウッズ体制から始まる。W氏はブレトンウッズ会議後75年間のグローバリズムの成果として「絶対的貧困層の割合が世界人口の10%を切った」ことを挙げ、「経済や社会が複雑になるに従い必要な公共財も」世界規模で「大幅に増え」ていると指摘する。我々が「生物圏を分かち合っている」以上「環境をグローバルに保護すること」、平和、「予測可能で開かれて安定した世界経済」、「経済発展」も公共財だという訳だ。しかし、「グローバルな公共財というのは、各国が協力して初めて実現する」ので「各国が協力を拒めば、公共財を創り出すことはできない。」従ってW氏は世界の繁栄と安定をもたらす世界規模の公共財を供給し維持する必要があり、その為の課題を3つ挙げている。
第1は、民主主義国家の「アイデンティティーと国民」の利益の相反だ。その例としてW氏は「グローバル化を進める上で最も重要な移民問題は、国際的には進めた方がよくても、国内の支持が得られないと」言う。
第2は、「世界における自国の位置づけと、国内問題のバランスをどう取るか」だ。強国と弱小国の間には金融面のグローバル化、貿易、法人課税、環境などで格差や不公平があり、その為に弱小国内に生じる不満を是正しなければならない。
第3は、最も重要な問題として「国内の失政や利害対立を外国人のせいに」して自国内の外国企業や外国を排除しようとする動きだ。
W氏は締め括りとして「世界規模で考え、行動しなくてはなら」ず、「協調的なグローバル主義を守るべき」であり、国民国家が「排外主義に走」らず「地元、国、地域、国際レベルでの要求と懸念のバランスをと」るべきだ、と言う。
W氏のこのコラムは昨年7月に英FTに掲載されたものであり、10か月後の世界の現状は彼のグローバリズムに対する反論に満ちている。そもそもW氏が言うグローバリズムとは何だったのか?それは「人類は漆黒の宇宙に浮かぶ地球という天体に住む孤独な存在」という印象から来るものだ。1970年代のこの1枚の写真は世界中の人間に人類が広大な宇宙でちっぽけな地球にしか住めない生き物であることを“観念ではなく現実として”理解させたという点で世界史的な事件だった。これ以降欧米の政治経済のメッセージには“this planet”という表現が頻出する様になった。それは「世界中どの人も同じ仲間として共に道徳的にも経済的にも豊かに幸せになるべきだし、その様にして行こう」というものだ。
この少し前に、グローバリズムを実現する手段として機能したのが第2次世界大戦直前に発足したブレトンウッズ体制だという。これは第2次世界大戦の惨禍が西欧各国の利己主義が衝突したからだという反省に立ってこの惨禍を繰り返さないように構築しようとしたもので、当然第2次世界大戦の戦勝国、特に米国が主導した。ブレトンウッズ体制は70年代に破綻したが米国はグローバリズムを主導し続けた。日本は戸惑いながらもそれを受入れた。
米中が国交回復し鄧小平が改革開放路線を始めたのも70年代だ。西側は中国に西側の社会、政治、経済システムや科学技術を提供し、中国に投資し、米国市場を中国企業に開放し、中国をWTOに加盟させて中国企業の成長を助けた。それはグローバリズムの定義に従って中国が西側の良き隣人になることを期待したからだ。そのおかげで中国のGDPは日本を抜いて世界第2位にまで成長した。
だが、その過程は結局西側のグローバリストが期待した通りではなかった。鄧小平が70年代に改革開放路線を始めた時彼は自国民に韜光養晦(とうこうようかい)を説いた。これは「今は野心を隠して実力を蓄えよう」という意味だ。この路線に従って中国は米国を凌駕して世界の覇権を握ろうという野心を隠し、米国の忠実な弟分の振りをし、あらゆる方法で西側の先端技術を吸収し続けた。当然賄賂、ハニートラップ、スパイも横行した。彼等はひたすら自己を無にして西側のシステムを学びそのコピーを自国に再現した。そして中国のGDPが日本を超えたころから中国は自国の覇権を表に出し始めた。習近平が中国最高指導者になった頃に出た一帯一路構想やAIIBがそれだ。中国は共産主義世界革命を中国主導で実現しようとしたのだ。このころから米国は中国の覇権主義に対する警戒感を強めて来たが、武漢発のウイルスがパンデミックを起こし600万人の米国人が犠牲になって中国制裁を強化し始めた。
そもそも、中国は19世紀から米国に肉体労働者を送り込んできたし、第2次大戦中は米国の支援を受けて日本軍に対抗したし、戦後は米国の対ソ連冷戦に協力したから、米国にとって中国が敵になることは想像しにくかっただろう。それに鄧小平は中国を14億人の市場として米国に売り込み、米国はそれにすっかり乗ってしまった。米国は中国人を教育して少しづつ豐かにしていって高価格帯の商品も売れる様にしようと金儲けのシナリオ実現に熱中した。米国の製造業を国内から中国に移し、中国の安い人件費を利用して製造した製品を世界中で販売して利益をあげた。これらは米国が、中国人は適切に教育すれば西側の「同じ仲間」になると思い込んだからだ。西洋人の東洋に対するロマンチシズムもあっただろう。
だが、中国人の民族性は数十年間教育した程度では変わらなかった。そもそも教育で変わるものでもなかったのだ。孫氏の子孫たちは「兵は詭計なり」、つまり“戦争の基本は敵を騙すことだ”の言葉通り理想主義の米国人を何年も欺き続けたのだった。中国は「超限戦」を米国に仕掛けたのだ。これは通常戦に加えて外交、国家テロ、諜報、金融、通信網、法律、心理、メディア等を総合的に組み合わせた軍事戦略であり、攻撃された側はそれをSilent Invasion と呼んだ。西側諸国は中国からの賄賂や嘘によって社会規範が甚だしく腐敗したのを改めて認識した。
ところで、米国がブレトンウッズ会議以来推進して来たグローバリズムは第2次世界大戦の戦勝国の論理を世界に押し付けるものだった。米国は製造工場を中国などに移転した為米国内では製造のノウハウと雇用が失われ、中間所得層が激減し、失業者は貧困化した。製造業を受け入れた後進国では労働者が低賃金で過酷な労働環境に甘んじる他無かった。グローバリズムは先進国の投資家だけを富ませる経済競争原理の別名でもあったのだ。
日本人は、中国に対して遣唐使のころの印象を持っている。中国はこの点を日本に訴えた。これに呼応して日本政府は中国からの留学生を受入れ、中国に技術、法制度、経済運営の仕組みを教え、産業界は中国に投資した。これは日本にとって突飛なことではない。日清戦争後に清から多数の留学生を受入れたし、戦前には「五族(和・韓・満・蒙・漢)協和」、戦後には「人類皆兄弟」が普及していた。日本は文化の先進地としての隋唐時代の中国にロマンを抱いて、中国が再び西側先進国の良き隣人になることを願ったのだ。安倍政権は「ヒト、モノ、カネの最も自由に行き来する国」を目指し中国との交流を進めて来た。その結果在日中国人は73万人に、在中国日本人は12万人に増えた。(2018年)
だが、日本人は現在の中国人が隋唐時代の漢人の子孫ではないことを見落としていた。昔の漢人の血は途絶え、今の中国人は周辺諸国からの征服王朝や毛沢東が中国人の文化文明を消滅せしめた後に残った無頼の者たちなのだ。日本も中国の超限戦の対象であり、Silent Invasionは日本にも起こっているのだ。
さて、2020年5月、中国をめぐる国際政治経済の環境はこの数か月で激変した。引金になったのは武漢発の新型コロナウイルスだ。米国が中国を非難する理由は情報隠蔽のせいでパンデミックを起こし600万人の米国人が犠牲になったのでそれを償え、という他にウイグル・チベットでの人権弾圧、数多のスパイ行為、香港に対する一国二制度の否定など沢山ある。米国は中国を米国から分離する他に関連諸国を糾合し中国に巨額の賠償金を支払わせようとしている。米中冷戦構造のなかで中国は確実に孤立しつつある。国際決済、IT技術、食料を押さえられた中国には勝目は無い。近い将来、中国は清朝末期の様になるか、軍閥が割拠する様になるかも知れない。
この状況で日本の安倍政権は習近平の国賓訪問を進めようとしている。これをやれば日本は中国側の国と見做され米国市場を失うかも知れない。リスクはこれだけではない。中国国防動員法が発令されれば日本にいる73万人の中国人は突然便衣兵になって敵対行動を始めるだろうし、中国にいる12万人の日本人は拘束され人質になるだろう。日本の取るべき政策は明らかだ。
ところで、米国は自らが主導してきたグローバリズムを否定しているのだろうか?そうではない。グローバリズムから中国を排除しようとしていると見做すべきだ。「America first」は米国の負担を削減する為のメッセージで、米国は形を変えてグローバリズムを主導し続けるだろう。日本は米国のグローバリズムの文脈に呼応して行動して来た。今後も東洋における重要なパートナーであり続け、中国からの蚕食を防ぎ、自国の国益と友好国の利益を求め続けるべきだ。では具体的にどうすべきか?これについては次のブログで述べてみたい。
資料;https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47782020V20C19A7TCR000/
2019年7月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/
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